このような場合、仕事が少ない企業が、自社の従業員の雇用を維持したまま、他の企業に出向いてもらい、出向いた先で仕事をしてもらう制度があります。
これが、「在籍出向」と言われるもので、現在、厚生労働省がこの在籍出向の制度を活用して雇用を守る事の支援を行っています。
〇在籍出向とは
上記と重なりますが、在籍出向とは、自社の従業員を、雇用関係を維持したまま、他社との雇用関係も結び、他社の業務を行ってもらう事です。
従業員を送り出す方の企業を出向元、受け入れる方の企業を出向先といいます。
労働者派遣と似た構造なのですが、労働者派遣は、派遣元の企業と従業員に雇用関係があり、実際に働いている派遣先企業とは雇用関係がありません。在籍出向は、両方の企業と雇用関係があることになります。
〇出向で儲けてはいけない
出向元が、自社の従業員を出向させ、出向している従業員に支払う賃金負担(社会保険料の事業主負担も含めます)より多額の出向料を出向先から受け取れば、出向元は出向で儲けることができます。
(出向している従業員の賃金負担分)<(出向料)
※差額が出向元に残る
ただ、これは、出向元が「中間搾取」している事になり、法律に違反する可能性が出てきます。こうならないように注意が必要です。
労働者派遣の場合は、派遣元が労働者派遣の認可を受け、派遣法を守って営業をしていれば、派遣料金が派遣労働者の賃金負担分より多額になっても、違法にはなりません。
〇在籍出向の手順
在籍出向をするためには、以下の3つのステップが必要です。
1 出向する従業員から、出向の同意を得る
2 出向元と出向先とで、出向の具体的な内容を定めた出向契約書を締結する
3 出向する従業員に、出向時の労働条件を通知する
このうち、出向契約書では、主に以下のことを定めることになります。
・出向の期間
・出向者の勤務時間等
・出向者への賃金の支払い方法
(出向元が支払うのか出向先が支払うのか?
出向元、出向先、どちらの規程に則って支払うのか?
等)
・出向料 (出向元が賃金を支給する場合)
〇産業雇用安定助成金
在籍出向の場合、要件満たせば、産業雇用安定助成金という助成金が受給できる可能性があります。
雇用調整助成金にも、「出向」という形式もありますが、産業雇用安定助成金の方が金額的には有利です。
産業雇用安定助成金は、出向元も出向先も受給できるという特徴があります。
概略で、以下の通りとなります。
ア 出向運営費 (出向契約で、賃金の負担の考え方が定めているのが条件)
出向元 出向者の賃金負担額の9/10
出向先 出向者の賃金負担額の9/10 教育訓練や労務管理の経費の調整額
ただし、出向元と出向先合わせて、1人1日12000円が上限
※9/10は、中小企業で解雇等を行っていない場合
イ 出向初期費用 (1回のみ)
出向規程の作成や出向契約書を専門家に頼んで報酬を払った
出向先が出向者を受け入れるための機器や備品の購入費用 など
出向元、出向先とも定額10万円
加算金として
出向元 雇用過剰業種や生産量が一定程度悪化した企業 定額5万円
出向先 異業種の出向を受け入れる企業 定額5万円