収入の壁問題 決着へ
多くの時間働き収入を増やしたいが、一定の収入を超えると、社会保険に加入して保険料を負担しなくてはならない。

あるいは、被扶養者ではなくなり、自身で国民年金や国民健康保険に加入して保険料を負担しなくてはならない。

手取り収入は減少するので、要件となる収入を超えないよう、労働時間を増やさない。(あるいは少なくする。)

こんな現象が起きています。

そして、このように労働時間を少なくすることが人手不足の要因になっていると言われています。

そのため厚生労働省が9月27日に、「年収の壁・支援強化パッケージ」を発表しました。

〇誤解のある表現

新聞報道などを見ると、

「従業員が101人以上の企業では、年収が106万円を超えると・・・・」

という表記をみます。

ここで「従業員」とう表現は誤解を生みます。

週の労働時間が20時間以上や賃金月額88000円以上という要件のもと社会保険に加入義務が出てくるのは、「被保険者101人以上」です。

「従業員」というと、一般的には短時間勤務のパートやアルバイトの方も含めます。

社会保険に加入する義務のない人も含まれています。

従業員は101人以上だけど、ほとんどが短時間勤務のパートだという企業は、注意が必要です。

また、「収入の壁は年間106万円ではない」ということは、本ブログやYouTubeの平倉社労士チャンネルでも紹介してきました。

月額で88,000円以上が要件です。

〇月額88,000円以上の人に対して

収入の壁を超えて社会保険に加入しても、手取り収入が変わらないような措置が発表されています
具体的には、以下のような内容です。
・キャリアアップ助成金を拡充し、短時間労働者が新たに社会保険の適用となる際、労働者の収入を増加させる取組を行った事業主にも助成金が出るようにする。
・助成は、複数年(最大3年)で計画的に取り組むケースを含め、一定期間(労働者1人当たり最大50万円)行う。
・助成対象となる労働者の収入を増加させる取組には賃上げや所定労働時間の延長のほか、社会保険料負担に伴う労働者の手取り収入の減少分に相当する手当(社会保険適用促進手当)の支給も含めることとする。
・社会保険適用促進手当については、社会保険適用に伴う労働者本人 負担分の保険料相当額を上限として、最大2年間、当該労働者の標準報酬 月額・標準賞与額の算定に考慮しない。

労働者は保険料の負担分を会社が補填してくれる形になります。会社はその分をキャリアアップ助成金から補填してもらうことになります。

両者が補填されているため、社会保険の加入しても収入や労働時間を増やしていこうというインセンティブにはなるでしょう。

〇年収130万円以上の人に対して
被保険者が100人以下の企業でも、被扶養者になるための要件として「年収130万円以下」というものがあります。

被扶養者でなくなれば、自身で国民年金や国民健康保険に加入して保険料を負担しなくてはならず、これを回避するために、労働時間を減らしている人もいます。

これまでも、年収の見込み額が一時的に130万円を超えても直ちに被扶養者でなくなるのではなく、総合的に将来収入の見込みで判断しています。

この際、課税証明書や直近の給与明細で確認しているのですが、一時的な収入の増加がある場合には、

「これらに加えて、人手不足による労働時間延長等に伴う一時的な収入変動 である旨の事業主の証明を添付することで、迅速な認定を可能とする。」

としています。どの程度の「迅速」になるのかは、現時点でははっきりしていません

多くの健康保険組合では、10月から11月にかけて被扶養者の確認書類を事業所に送付し、被扶養者の要件から外れているのに手続していない人がいないかをみます。

その際、被扶養者になるかどうかの確認書類が、変更になるかもしれません。

〇配偶者手当も見直しへ
このほか、年収の壁・支援強化パッケージでは、「企業の配偶者手当の見直し促進」が取り上げられています。

配偶者手当では、所得税が非課税であること という要件を付けている企業が多いです。

配偶者手当をもらうために、収入を抑えているというケースもあります。働く時間も少なくなるのです。

これの見直しについて書かれていますが、来年の春闘に向けて「見直しの手順をフローチャートで示す等わかりやすい資料を作成・公 表する。 」となっていて、具体的な内容はまだわかっていません。
平倉社労士 東京都文京区の社会保険労務士 就業規則、雇用安定助成金